睡眠と密接に関わっているホルモン「メラトニン」は、体内リズムを整える働きがあります。しかし、日本ではメラトニンを含むサプリメントの販売や使用が法律上認められていません。
そこで注目されているのが、メラトニンの前駆物質である「トリプトファン」の摂取です。本記事では、トリプトファンの摂取が本当にメラトニン生成を助け、睡眠改善に効果があるのか、国内外の研究結果をもとに解説します。
メラトニンとトリプトファンの関係
メラトニンは、脳の松果体から分泌されるホルモンで、眠気を促し、体内時計(サーカディアンリズム)を調整する役割を果たしています。このメラトニンの原料となるのが、必須アミノ酸のひとつであるトリプトファンです。
トリプトファンは体内で以下のような段階を経て、最終的にメラトニンとなります:
- トリプトファン → セロトニン(神経伝達物質・幸福ホルモン)
- セロトニン → メラトニン(睡眠ホルモン)
つまり、トリプトファンの摂取量が不足すると、セロトニンやメラトニンの生成も低下し、睡眠の質が悪化する可能性があるということです。
研究結果:トリプトファン摂取と睡眠の改善
1. オランダの研究(Lieberman et al., 2020)
トリプトファンを高配合した朝食を摂ったグループでは、睡眠潜時(眠りに入るまでの時間)が短くなり、深い睡眠時間も増加した。
この研究は、18〜35歳の健康な成人を対象にしたランダム化比較試験です。被験者にトリプトファンを多く含む朝食(卵・乳製品・全粒穀物など)を与えたところ、就寝時のメラトニン分泌が増加し、入眠までの時間が平均で15分以上短縮されました。また、睡眠の深さ(ノンレム睡眠)の割合も上昇しており、トリプトファンの摂取がメラトニン合成に寄与することが実証されました。
2. 日本の大学での研究(Koga et al., 2003)
牛乳と魚介類を多く含む夕食を摂取した中高年層では、睡眠時間と睡眠効率が有意に改善された。
福岡女子大学の研究では、50〜70代の男女を対象に、トリプトファン含有量の高い食事(焼き魚・味噌汁・豆腐・牛乳など)を夕食として2週間摂取させたところ、被験者の睡眠時間が平均で30分延長、睡眠効率(ベッドにいた時間のうち眠っていた割合)も向上しました。このことから、加齢とともに睡眠の質が低下しやすい日本人中高年にとっても、食事を通じたトリプトファンの摂取が有効であるとわかります。
3. アメリカの臨床研究(Hudson et al., 2005)
サプリメントとしてのL-トリプトファン摂取は、軽度〜中程度の不眠症状に対して、入眠潜時・夜間覚醒回数の減少を示した。
この研究では、不眠傾向のある成人28名に1日1000mgのL-トリプトファンを2週間投与し、対照群と比較しました。結果、トリプトファン摂取群では入眠時間が平均20分短縮し、夜中に目覚める回数も減少。精神安定にも寄与するセロトニンの増加も確認され、睡眠全体にポジティブな影響を及ぼす可能性が示されました。
どれくらい摂取すれば効果がある?
多くの研究では、1日あたり300〜500mg程度のトリプトファン摂取が目安とされています。ただし、体格や生活リズムにより適量には個人差があります。
食品に含まれるトリプトファンの量(100gあたり)
- 七面鳥肉:約350mg
- 牛乳:約40mg
- 豆腐:約100mg
- バナナ:約10mg
- 納豆:約240mg
- チーズ:約290mg
通常の食生活では必要量に達しにくいため、食事+サプリメントの組み合わせが効果的と考えられています。特にベジタリアンや偏食傾向のある方は注意が必要です。
注意点:サプリメント利用時の留意点
日本ではメラトニンそのもののサプリは医薬品扱いのため、一般販売されていませんが、トリプトファンや5-HTP(5-ヒドロキシトリプトファン)を含む健康補助食品はドラッグストアやネット通販で購入可能です。
。過剰摂取により吐き気・腹痛・眠気が強く出るケースも報告されています。1日の摂取量は必ずパッケージや医師の指導に従ってください。
まとめ:前駆物質としてのトリプトファンに注目を
睡眠に悩む方にとって、メラトニンを直接摂ることは日本では難しい状況です。しかし、その前駆物質であるトリプトファンを食事やサプリから適切に摂取することで、メラトニンの生成をサポートし、結果的に睡眠の質を高める可能性があることが、国内外の研究から見えてきました。
「自然に眠れる毎日」を目指すなら、まずは今日の食卓から少しずつ変えてみてはいかがでしょうか。
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