超ウルトラで補給が無い!食べられないときマウスリンスで錯覚できる?

ランニング

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導入:補給できない時の“最終手段”?

ウルトラマラソンやロングトレイルで、誰もが一度は経験するのが「胃が受け付けなくなる」瞬間です。

序盤は順調に食べられていた補給食が、レース後半になると一口で吐き気を催し、固形物はおろかジェルすら気持ち悪くなる。かといって補給せずには走れない──そんな状況で役立つのが、「マウスリンス戦略(mouth rinse strategy)」です。

これは、「飲まない補給」ともいえるアプローチで、近年、エリートアスリートの間でも活用されるようになってきました。本記事では、科学的なエビデンスに基づいて、マウスリンスの効果・仕組み・使い方・注意点まで徹底解説します。

マウスリンスとは?

マウスリンスとは、糖質を含んだドリンクを口に含んで数秒すすぎ、吐き出すという補給戦略です。つまり「飲み込まない補給」です。

2000年代後半の研究により、実際に糖質を摂取せずとも、脳が「エネルギーを得た」と認識してパフォーマンスが向上することが判明し、注目を集めました。

通常の補給との違い

補給方法 摂取方法 エネルギー吸収 消化負担 効果の即効性
通常補給 飲む・食べる ◎(消化吸収される) △(吸収に15〜30分)
マウスリンス 含んで吐き出す ✖(吸収なし) なし ◎(数秒で脳が反応)

効果の仕組み:脳と神経の“錯覚”

糖質を含む液体が舌や口腔内に触れると、T1R2/T1R3受容体が反応し、脳(前帯状皮質、島皮質、前頭前野)の報酬系が活性化します。

この反応によって、実際に飲み込んでいないにもかかわらず、脳が「糖質が入ってきた」と錯覚し、以下のような効果をもたらします。

  • モチベーションの向上
  • 疲労感の軽減
  • 集中力・出力の維持

これにより、エネルギー摂取を伴わずにパフォーマンスを維持・向上できるのです。

補給による循環負荷と酸素供給のトレードオフ

長時間の運動中に固形物やドリンクで補給を行うと、消化のために胃腸へ血液が集中します。この現象は「スプランクニック血流(内臓血流)」と呼ばれ、筋肉や脳への酸素供給と競合します。

状況 血流の配分変化
空腹状態の運動 骨格筋・脳への血流が優先
補給後の運動 胃腸への血流が増加 → 筋肉・脳への供給が一時的に低下

結果として、以下のような問題が起こる可能性があります:

  • 筋肉への酸素供給が低下し、出力が落ちる
  • 消化不良による腹痛・吐き気・下痢など

なぜマウスリンスが有効か?

マウスリンスは飲み込まないため、消化が発生せず、筋肉・脳への酸素供給を妨げないという大きな利点があります。

  • 筋肉への酸素供給を維持できる
  • 脳の錯覚により出力を維持・向上
  • 胃腸への負担ゼロ

どんな運動で有効か?

マウスリンスが最も効果を発揮するのは30〜90分の高強度運動です。代表的なケースには以下が挙げられます:

  • ハーフマラソンや10kmレース
  • インターバル走やテンポ走
  • 空腹状態での朝ラン

研究からの裏付け

Chambers et al. (2009)では、糖質マウスリンスによりサイクリングタイムトライアルの成績が2〜3%向上しました。
Rollo et al. (2010)では、マウスリンスが補給ドリンクと同等の効果を持つことが示されています。

ウルトラマラソン・トレイルでの応用

長時間のランニングでは、後半にかけて補給が難しくなる場面が増えてきます。胃が重くなる、気持ち悪くなる、食欲がなくなる──こうした症状は誰にでも起こり得ます。

マウスリンスは“つなぎ”になる

マウスリンスは、補給ができないときの「エネルギー摂取の代替」ではなく「神経的なつなぎ手段」として活用できます。

口に含んで吐き出すだけなので、胃腸への負担はゼロ。それでいて脳に「補給された」と錯覚させることができ、吐き気や食欲不振時の“精神的ブースト”として重宝します。

ただし長距離には限界がある

マウスリンスはあくまで一時的な戦略です。レース時間が3時間以上におよぶような場面では、実際のエネルギー摂取が不可欠です。

理想は、補給とマウスリンスを併用し、状況に応じて使い分けることです。

実践的な使い方と注意点

✅ 実践ポイント

  • 使用タイミング:20〜30分ごと、または補給が苦しい時
  • すすぐ時間:5〜10秒間しっかり口内にとどめる
  • 成分の選び方:グルコースやマルトデキストリン含有飲料が必須
  • 温度:常温またはぬるめがおすすめ(冷たすぎると逆効果)

⚠ 注意点

  • エネルギー補給にはならないため、長時間運動には不向き
  • 飲み込まないことが前提。胃腸トラブル時は要注意
  • 人工甘味料では効果がない可能性がある

まとめ:マウスリンスは「飲まない補給」の新常識

マウスリンスは、従来の「食べる・飲む」補給とは異なる、脳と神経を利用したパフォーマンス維持戦略です。

  • 短時間・高強度運動:補給の代替として使用可能
  • 長時間・超長距離:胃腸が受け付けない時の“つなぎ”として活躍

胃腸トラブルに悩まされるランナーにとって、マウスリンスは「最後の切り札」とも言える存在。補給の幅を広げる選択肢として、ぜひ取り入れてみてください。

参考文献

  • Chambers, E.S. et al. (2009). Carbohydrate sensing in the human mouth: effects on exercise performance and brain activity. J Physiol
  • Rollo, I. et al. (2010). Influence of mouth rinsing carbohydrate solutions on endurance running performance. Sports Medicine.
  • Fares, E.J. & Kayser, B. (2011). Carbohydrate mouth rinse effects on exercise capacity in pre- and postprandial states. J Nutr Metab
  • Jeukendrup, A. & Chambers, E. (2010). Oral carbohydrate sensing and exercise performance. Curr Opin Clin Nutr Metab Care.
  • Trommelen, J. et al. (2023). Nutritional strategies to optimize training and racing in endurance athletes. Sports Medicine

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