マラソンやウルトラマラソンに挑戦するランナーにとって、多くが直面するのが「30kmの壁」や「後半の失速」です。
その要因のひとつが、体内の糖(グリコーゲン)が枯渇してしまうこと。
人間の体には豊富な脂肪が蓄えられており、これを効率的に利用できれば長時間にわたって安定したパフォーマンスを発揮できます。そこで注目されるのがFATmax(ファットマックス)トレーニングです。
この記事では、
- FATmaxとは何か
- トレーニングで脂肪酸化速度がどこまで伸びるのか
- LSDとの違い
- 実践的な取り入れ方
を、研究と事例をもとにわかりやすく解説します。
FATmaxとは?
定義
FATmaxとは、「運動中に脂肪燃焼が最も大きくなる強度」のことです。
- VO₂maxの45〜65%程度
- 最大心拍の55〜65%前後
- 感覚的には「呼吸は少し弾むが会話できるペース」
👉 FATmaxトレーニング=脂肪燃焼のピークを狙った持続走と考えると分かりやすいでしょう。
脂肪酸化速度(MFO:最大脂肪酸化速度)とは?
脂肪燃焼能力を定量化する指標がMFO(Maximal Fat Oxidation)です。
- 単位は「g/分」
- 1.0 g/分 ≒ 9 kcal/分
- MFOが高いほど、長時間のエネルギーを脂肪から賄える
研究では、MFOはトレーニングや食事戦略で大きく変化することが示されています。
👉 MFOはFATmaxゾーンにおける1分あたりの脂肪酸化量を指します。つまり「FATmax=脂肪が最も燃える運動強度」であり、そのときの燃焼量を数値化したものがMFOです。
FATmaxトレーニングでMFOはどこまで向上するのか?
未経験者〜初心者ランナー
Venablesら(2005)の研究では、持久的トレーニングによってMFOが0.2〜0.3 g/分 → 0.5〜0.6 g/分へ。改善率は約2倍に達しました。
市民ランナー・中級者
Achten & Jeukendrup(2003)によると、すでに鍛えている男性ランナーでもFATmax走を組み込むことで+10〜25%のMFO向上が見られました。
例:0.6 g/分 → 0.7〜0.8 g/分
上級者・エリート
FASTER研究(Volek et al., 2016)では、ケトン適応した超持久系ランナーが1.54 g/分という非常に高いMFOを記録しました。高糖質食群は0.67 g/分であり、その差は2倍以上。FATmaxはVO₂maxの70%付近にシフトしていました。
FATmaxとLSDの違い
FATmaxとLSDは混同されやすいですが、性質が異なります。
- FATmax: 脂肪燃焼が最大になる一点の強度(VO₂maxの45〜65%、40〜70分の持続走)
- LSD: 広い範囲の低強度ロング走(最大心拍60〜70%以下、120〜180分以上)
👉 LSDは「持久力基盤を広げる練習」、FATmaxは「脂肪燃焼効率を高める練習」。両者は補完関係にあります。
LSDと疲労抜きジョグの違い
日本では「疲労抜きジョグ」もLSDと呼ばれてしまうことが多く混乱を招きます。
- 疲労抜きジョグ: 心拍50〜60%以下、30〜60分、目的=疲労回復
- LSD: 心拍60〜70%以下、120〜180分以上、目的=持久力基盤強化
3種類の比較表
種類 | 心拍の目安 | 時間の目安 | 主な目的 | 特徴 |
---|---|---|---|---|
リカバリーラン | 最大心拍50〜60%以下 | 30〜60分 | 疲労回復 | アクティブレストとして走る休養 |
LSD | 最大心拍60〜70%以下 | 120〜180分以上 | 持久力基盤強化 | 長時間走で全身を鍛える |
FATmax走 | 最大心拍55〜65%(VO₂max45〜65%) | 40〜70分 | 脂肪燃焼効率アップ | 「燃費の良い体」を狙う |
実践での組み合わせ方
週15時間走るランナーの例
- LSD/イージー:9時間(全体の60%)
- FATmax走:3〜4時間(25%)
- 高強度(テンポ・インターバル):2時間(15%)
👉 LSDで「土台」を作り、FATmax走で「効率」を高め、少量の高強度で「スピード」を維持するのが理想。
まとめ
- FATmax=脂肪燃焼が最大になる強度
- MFO=FATmaxゾーンにおける1分あたりの脂肪酸化量
- トレーニングでMFOは大きく向上する(初心者は2倍、中級者は+10〜25%、エリートは1.0〜1.5 g/分)
- LSDは長時間の基盤作り、FATmaxは効率強化。両立が最適解。
結論: FATmaxに焦点を当てたトレーニングは、脂肪酸化速度を確実に高め、マラソンやウルトラで後半まで粘れる“燃費の良い体”を作る最も有効な手段のひとつです。
👉 ここで改めて強調すると、MFOはFATmaxゾーンにおける1分あたりの脂肪酸化量であり、脂肪代謝能力の伸びを直接示す重要な指標です。
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